研究概要 |
平成15年度の研究計画に従って研究を行い、以下に示す結果を得た。 フラーレンC_<60>と5,6-diphenyl-3-(2-pyridyl)-1,2,4-triazineとの反応で得られる8員環開口部をもつフラーレン誘導体に、酸素共存下可視光照射を行うことによって、その開口部を12員環に拡大させ、さらにその開口部に硫黄を挿入させる反応を独自に開発し、13員環の開口部をもつフラーレン誘導体1を合成した(消費されたC_<60>基準の全収率約40%)。まず、この開口誘導体内部へヘリウム、ネオン、水素分子を導入する際に必要なエネルギーを密度汎関数法を用いた理論計算によって求めたところ、水素分子の場合で30.1kcal/molと、1がこれまでで最も大きな開口部をもつことが明らかとなった。そこで実際に粉末状の1に対して水素ガスを800気圧、200℃の条件で作用させたところ、100%収率で水素分子を1の内部に導入できることを見出した。水素分子の導入率は水素ガスの圧力に依存し、560気圧では90%、180気圧では51%となった。この水素内包体H_2@1の^1H NMR測定では、内包された水素分子のシグナルは-7.25ppmという極めて高磁場にシグナルを与え、さらにそのスピン-格子緩和定数が溶存酸素の影響を全く受けないことがわかった。また、このH_2@1は160℃以上の加熱によって内包された水素分子を放出することがわかり(160℃での半減期54時間)、水素分子放出の活性化エネルギーは34.3±0.7kcal/molと決定された。H_2@1のMALDI-TOF MS測定を行ったところ,水素分子を内包したままの分子イオンピークが確かに観測された。さらにレーザー強度を上げて測定したところ、H_2@1の開口部の自己修復が起こり、水素分子を内包したままのC_<60>,すなわちH_2@C_<60>,が発生することを初めて観測した。
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