研究概要 |
近年、化学的及び物理的手法を駆使した単分子レベルにおける状態変換や、ナノスケール特有の量子効果に基づいた単分子電子素子の開発が注目を集めている。本研究ではそのための最重要課題として、(1)物理的及び化学的摂動に対し応答し、分子内電子状態を変換しうる双安定性分子の構築と(2)引き起こされる分子内状態変換を隣接分子へ伝達しうる超分子システムを合理的に構築することに注目し研究を遂行している。特に、「混合原子価状態」という非対称的な電子構造を「分子が持つ情報」として活用する事で、金属錯体ならではの性質を示す電子素子を開発することを目的としている。 本研究では、2年間の研究過程に、長鎖アルキル基を有する新規平面性Pd,Pt錯体の合成に成功し、その結晶構造解析により構造を明らかにすると同時に、ナノサイズの混合原子価金属錯体を合成することを目的に、原子価互変異性に基づく双安定性を示すCoキノン錯体をモジュールとした新規クラスターの合成方法を見出した。得られた新規5,6,10核クラスター錯体は、金属及び配位子ともに電子スピンを有し、かつ配位子が混合原子価状態である、これまでにない類を見ないナノサイズクラスターである。本研究ではこれらの分子構造を明らかにすると共に、その生成機構並びに磁性について検討を行い、錯体が外場により、金属-配位子間又は配位子間の電荷および電子移動が誘起される可能性を確認した。また本クラスター錯体は、反応活性なセミキノネートとフェニレンジアミン間の脱水縮合反応がその形成の引き金となり生成することを明らかとし、他種金属イオンにも応用可能であり、且つ多様なナノサイズ金属錯体クラスターの創成に有用な反応であることを示した。
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