研究概要 |
本研究では、サンゴ幼生の供給源・加入先を明らかにするため、異なる卵特性を持つ種について1.室内実験により幼生の定着期間と定着率を調べ、分散可能な日数と最適な加入時期を明らかにし、2.親群体の遺伝子解析により個体群の関係を実証することを目的としている。 対象海域は主として、琉球列島慶良間列島-沖縄本島とし、一部他の海域とも比較した。 前年度までに、サンゴ礁に優占するサンゴ(放卵放精型,ハナガサミドリイシAcropora tenuis;保育型,アオサンゴHeliopora coerulea,およびハナヤサイサンゴPocillopora damicornis)を対象に、サンゴ幼生の定着能力の時系列変化を明らかにした。放卵放精型のハナガサミドリイシの幼生は、受精後3日目より定着し定着率は10日目にピークとなるが、保育型サンゴ幼生は、放出後1時間より定着を開始し、24時間まではアオサンゴでより定着が早い傾向があった。さらに、保育型でも、アオサンゴ幼生のほうがハナヤサイサンゴよりも早く定着率が減少することが明らかとなった。 本年度では、こうした違いが卵成分によって異なると考え、その成分(脂質)について分析を行った。その結果、ハナガサミドリイシの卵は90%が脂質であったが、アオサンゴは約50%であった。また、脂質内の成分を分析したところ、前者では主として栄養源となるワックスエステルから構成されていることが明らかとなった。以上より、幼生の定着能力には脂質が関与していることが明らかとなった。さらに、分散能力の低いアオサンゴについて異なる海域2地点で遺伝子解析による比較を行ったところ(CADによる多バンド検出)、バンドパターンに顕著な差がみられた。このことは、アオサンゴ幼生は分散に乏しいことを証明するものである。 以上より、サンゴの種類によって幼生分散範囲が異なり、それぞれの加入範囲があることが示唆された。
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