研究課題
若手研究(B)
冷温帯ではネズミの個体数は種子の豊凶に影響されて年変動するが、そのパターンは森林の種組成に応じて異なっている。たとえばブナの優占度の高い純林状の林では、ネズミの個体数は種子の豊凶を半年遅れで追うように変化し、ブナの豊作翌年にネズミが大発生するが、同じ森林帯でも混交林の場合は、種子量の変動が小さいにもかかわらず、ネズミの個体数は大きく変動し、やはりブナの豊作の効果が際だっている。そこでアカネズミを用いて飼育実験を行い、餌の成分の違いがネズミの体重に与える影響を検討した。餌として種子(ブナ、トチノキ、ミズナラ)と各種子を特徴づける成分(脂肪、サポニン、タンニン)を含む人工餌を準備し、10日間の体重推移を調べた。その結果、ブナは体重を安定または若干増加させ、トチノキとミズナラでは体重を減少させる効果が見られた。またミズナラを与え続けた実験区では1個体が死亡した。人工餌を与えた各区のうち、脂肪区とサポニン区ではそれぞれそれぞれブナ区、トチノキ区を再現できた。ただしサポニン区では全個体で体重が激減し、ほとんどの個体が死亡した。タンニン区はミズナラ区を再現できなかった。摂食量・糞量は、ブナ区や脂肪区では給餌後徐々に減少し、逆にミズナラ、トチノキ、タンニン、サポニンの各区では徐々に増加した。人工餌の見かけの消化率は脂肪、デンプンの順に高く、次にサポニン、タンニンが同程度でつづいた。以上より、ブナ、トチノキ、ミズナラの順にネズミの成長にとって餌の質が高いと思われ、トチノキに含まれるサポニンはネズミにとって毒性を持つことが明らかになった。ネズミは一般に秋季の成長の良い個体が翌春の繁殖に参加するといわれている。したがって、結実する樹種が異なるとネズミの成長の違いを介して翌春の繁殖による個体数の増加に影響が出ることが示唆される。
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Plant Ecology 176・(印刷中)
Ecological Research 19・3
ページ: 357-363
10012939591