研究概要 |
高緯度に生息する変温動物は環境温度の低さ故に成長が抑制されると考えられるが,実際には,高緯度の変温動物は遺伝的に高い成長能力を適応進化させその負の影響を補償している(=緯度間補償)ことが明らかになってきた.しかし,緯度間補償の進化に関する先行研究では,対象生物の系統関係を無視した比較や,各集団内の遺伝的変異や形質間の遺伝相関を調べず進化上の制約を無視した議論がなされてきた.昨年度の研究から,同じ系統群(北日本系統群)に属するメダカOryzias latipesでも,高緯度の集団ほど稚魚期の成長が遺伝的に速いことが明らかになった.これは,短い成長期間を補償する適応進化を反映していると考えられた.しかし,低緯度のメダカが速い成長を進化させないのは,速い成長に対するトレードオフの存在をも示唆している.共通環境実験により緯度の異なる集団間(青森,新潟,福井)で個体の成長と繁殖のスケジュールを比較したところ,高緯度の集団ほど稚魚期の成長が速くまた一腹あたりの卵への投資量も大きいが,繁殖開始サイズは大きくその後の成長も悪いことがわかった.この成長および繁殖スケジュールの緯度間変異は,成長と繁殖の間にトレードオフが存在することを示唆している:高緯度のメダカは小さい体サイズでの繁殖を犠牲に繁殖開始前の高い成長パフォーマンスを発揮する一方,繁殖開始後の成長を犠牲に高い繁殖能力を維持していると考えられる.しかし,各集団内では,繁殖開始後の成長が速い個体ほど一腹あたりの卵投資量も大きい傾向にあり,速い成長と高い繁殖能力が本来は同時進化し得ることが示唆された.
|