研究概要 |
ボルバキア属の細菌は,多くの昆虫に感染する細胞内リケッチア様細菌で,宿主に雄殺し,性転換,産雌単為生殖,細胞質不和合など,多様な生殖異常を引き起こす.これらの現象は,基礎生物学的に興味深いだけでなく,昆虫の生殖操作による有益昆虫の増産や害虫の肪除に応用でる可能性をもつが,その分子機構は分かっていない.本研究はボルバキアの形質転換技術を開発し,逆遺伝学的手法により生殖異常の分子機構を解明することを目的として遂行した. 本研究では,申請者らが発見したボルバキアに感染するファージを利用して,ボルバキアへの遺伝子導入ベクターを構築するために,このファージのゲノム構造を解析した.ボルバキア感染昆虫(スジコナマダラメイガ)からファージ粒子を精製し,そこから抽出したDNAを解析し,ファージは約20kbpの直鎖状2本鎖DNAをもつことを示した.さらにその全塩基配列を決定した.塩基配列からは,ファージの複製開始点を同定できなかったが,ファージ・ゲノム上にはボルバキア細胞内で複製されるために必要な構造が揃っているはずである.ファージ・ゲノムの任意の領域をPCR法で増幅し,大腸菌プラスミド等に組み込むことにより,ボルバキア細胞内でも複製されるシャトル・プラスミドを作製する準備が整った.ファージ・ゲノムは24のORFを含むと推定され,その中の一つ(Gp15)は,羊腐蹄症の原因細菌がもつファージ由来の病原遺伝子と相同性を示した.細菌の病原性を規定する遺伝子はファージ感染に由来することが多く,ボルバキアによる宿主の生殖撹乱の原因遺伝子がファージ上に存在する可能性を指摘した. また,定量PCR法を応用してボルバキア感染密度を測定し,感染密度と細胞質不和合の強度に正の相関があること,ボルバキアの増殖は主に宿主側の因子によって制御されることを示唆した.
|