研究概要 |
本研究では,2本の多層カーボンナノチューブ(CNT)を十字型に配置した4端子素子構造を作製し,その精密磁気伝導測定により多層CNTおよびその接合部における本質的な伝導様式を明らかにすることを目的とし、研究を進めた。 前年度に引き続き、マイクロキャピラリを用いたCNTのマニピュレーション技術と精密アライメント紫外線露光技術の確立により、十字路伝導素子の安定的な作製が可能となり、4Kまでの伝導特性の測定が可能となった。十字構造の4つの端に取付けた金属電極から、1本のCNTに対して電流を流した場合(直線伝導)と2本のCNTにまたがって電流を流した場合(曲がり伝導)の測定を行った。直線伝導おける2端子コンダクタンスの温度依存性ならびに低温における微分コンダクタンスはベキ乗則を示し、そのベキは0.7で一致することから朝永・ラッティンジャー液体(TL)的な伝導が起っていることが確かめられた。さらに、曲がり伝導に対する2端子コンダクタンスもTL的となり、そのベキは直線伝導の2倍に近い1.6となることがわかった。曲がり伝導における4端子測定(電圧端子を電流を通さない2つの端子で取った場合)では、実質的に接合部のみでのコンダクタンスを測定でき、その伝導特性はTL的な振る舞いを示さず、弱局在現象によって記述されるような温度依存性を示すことが明らかとなった。これにより接合部では量子干渉による伝導度補正が起っていることが明らかとなった。 さらに、同様の構造において、曲がり伝導の微分コンダクタンスに左右非対称なゼロバイアスピークが観測された。そのピークは室温でも辛うじてその痕跡を確認でき、100K以下で強度が飽和することがわかった。このピークの原因はまだ明らかとなってはいないが、CNT間の伝導における何らかの量子干渉現象と考えられ、現在ファノ効果や近藤効果などを視野に入れて解析を行っている。
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