研究概要 |
S45C基板上にTi薄膜を成膜し,その上にTiN薄膜を成膜したTiN/Ti積層膜と,基板上に直接TiN薄膜を成膜したTiN単層膜との比較により,TiN薄膜の各種特性に及ぼすTi中間層挿入の影響を調べた.ガス圧,バイアス電圧を変化させて作製した複数のTiN薄膜について,Ti中間層挿入により,残留応力,硬さ,じん性等を低下させることなく密着強度を改善できることがわかった.TiN薄膜の耐摩耗性の向上には,圧縮残留応力を増加させ硬さを高めることが有効であるが,圧縮残留応力の増加は膜内のひずみエネルギーの増加をもたらし密着強度の低下を招く原因ともなるため,圧縮残留応力を増加させた場合,TiN単層膜では摩耗過程におけるはく離発生寿命が低下することがあった.これに対し,TiN/Ti積層膜では,Ti中間層による密着強度改善効果によりはく離発生寿命が向上し,硬さの増加に伴って耐摩耗性が向上することもわかった. また,Ti中間層の挿入により,TiN薄膜の表面が平坦化し,かつピンホール欠陥が減少することがわかった.このことから,腐食疲労寿命の向上が期待されたが,TiN/Ti積層膜を成膜したステンレス鋼やアルミニウム合金に対して3%NaCl溶液中で疲労試験を行った結果,それらの疲労寿命はTiN単層膜を成膜した場合と同程度で,Ti中間層による腐食疲労寿命の向上効果は認められなかった. さらに,加熱後のTiN/Ti積層膜とTiN単層膜について,TiN薄膜の各種特性の比較も行った.TiN/Ti積層膜を加熱した場合,TiN単層膜を加熱した場合に比べ密着強度が低下するとの指摘もあるが,本研究の範囲ではそのような現象は認められなかった. Ti中間層による腐食疲労寿命の向上効果は確認できなかったが,TiN薄膜の密着強度や耐摩耗性を向上させる上で,Ti中間層の利用が有効であることを明らかにした.
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