研究概要 |
高分子材料の疲労は,マクロ的には材料の集合体として振舞うのに対し,ミクロ的には高分子鎖の集合体として,高分子鎖の切断,架橋,絡み合いの解れなどによる現象が現れる.このことは,金属材料に適用しうる材料評価手法を高分子材料に適用することへの問題点としてあげることができる.しかし現在,高分子材料の材料評価には,金属材料の評価手法を適用しており,工学的合理性の面からみても,信頼性のある評価がなされている.ところで,高分子材料は重合によって製造されることが一般的である.重合についての研究は古くからなされており,その状態は反応速度論で整理することができる.本課題で扱う劣化は,重合の逆反応(解重合)であるといえる. そこで,本課題では種々の劣化の状態を再現し,それぞれの劣化の状態を反応速度係数で整理し,機械的性質評価の統一的なパラメータとしての可能性について検討を行った.その結果,以下のことが明らかとなった. 高分子材料の劣化が高分子鎖の分解(低分子量化)のみの場合,疑一次反応として整理することができることがわかった.また,この劣化では劣化の化学的な状態と機械的性質の変化がよく一致し,劣化による材料寿命予測などに応用できる可能性があるものと考えられる. また,劣化が分解と架橋(低分子量化と高分子量化)が行われる場合については,次の二つの方法で整理できることがわかった.一つ目は分解と架橋が同時に進行する場合,疑一次もしくは二次反応として整理できる.二つ目は分解が先行し,ついで架橋反応が伴う場合,疑一次反応と疑一次もしくは二次反応の時系列変化的な関係となることである.これらの場合,機械的性質との関連性はみられず,複雑な様相を呈することが明らかとなった. 今後は,劣化が分解と架橋を伴う場合の劣化メカニズムの解明と,複合的な劣化因子がある場合での機械的性質評価の確立が課題としてあげられる.
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