研究概要 |
本研究の目的は,カオス的協調現象を秘匿通信システムに適応する際に実用化可能な変復調方式を提案し,その有効性を実験的に検証することにある.昨年度は,その研究成果によってカオス的協調現象には重畳方式を用いた変調方式が適していると結論づけた.本年度は,重畳変調方式を用いたカオス通信システムの実用化を想定し,試作器の変調およびその基本特性の評価を行った.試作器は,大域結合型4-結合カオスシステムである.送信サイトはPLLによって発生されたカオス的なキャリア信号に送信信号を重畳することによって電送線路上にカオス的な信号を送り出す.受信サイトは送信サイトと逆の手続きによって送信された信号を復調するように設計している.また,実用化に向けて,(1)送信信号にはLEDディスプレイに表示された動画を用い,(2)電送線路上の信号はデジタル化したものを用い,(3)光通信を想定のもと電送線路にはフォトカプラを用いている.評価の結果,電送線路上を伝達する信号の時系列,パワースペクトラムから電送信号の情報を復調することができないこと,すなわち秘匿性が確保されていることを確認した.通信の品質は従来型の秘匿通信に比し著しく劣っているとは認められなかった.また,電送線路上の信号をデジタル化することにより,我々のグループが開発した従来型のものに比し通信の品質の向上も認められた.なお,通信品質向上のためにカオスの安定化に関して研究を行った結果,電子回路網における時間遅れフィードバック制御技術を用いたカオスの安定化に関して付加的な研究成果を得た.上記の研究成果は,これから展開するデジタル秘匿通信技術とカオス的協調現象を用いた秘匿通信技術との融合を図るための研究の基板となっている.
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