研究概要 |
東京都大田区久が原の低層住宅街における既存の観測鉄塔(高さ30m)を使用して、バルク係数やシアー関数などの水文陸面パラメーターを詳細に検討するため、本年度は特にキャノピー内外において、風速,温度,乱流のプロファイル計測を集中的に行った。 その結果、以下のような成果が得られた。 1)温位プロファイルは、冬至付近では日中屋根面付近に温位の極大値が現われ、夏至付近では地表面付近に温位の極大値が現われる。また、明け方において、地表面が冷たく日の出により屋根面付近が暖められている状態では、キャノピー内においては顕熱フラックスの値は負となり、大気安定度は正の値をとる。複雑な三次元構造を持つ都市は、太陽高度の変化により熱のシンクが上下に移動するという、他のキャノピーには見られない特有な性質をもつ。このことは都市キャノピーにおける代表温度の定義方法にも関係する重要な知見である。 2)無次元化された水平風速分布が従来型のプロファイル関数に従うには、キャノピー上で計測された局所的な摩擦速度ではなく、屋根面レベルで定義される摩擦速度μ_rを用いる必要がある。 3)無次元化した風速勾配(シアー関数,φ_M^<-1>)は従来型のモニンオブコフ相似則に従う。しかしこの統計量は高さに対して依存性があり、都市キャノピーに近づくと大きくなる。建物の大きい凸凹によって作られた乱れが勾配型拡散以上の運動量輸送を誘起していると考えられる。一方、温位勾配φ_H^<-1>には顕著な高度依存性はみられず、どの高度においても既存のMOS関数と合致する。スカラー量である熱は建物の凹凸の影響を受けず、既存の接地層理論が都市接地層内の広い範囲で適用できる。 4)都市における輸送メカニズムは、同じ大粗度である植生キャノピーよりも、むしろ平原における関係と似ていることがわかった。
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