研究概要 |
〔研究目的・研究方法〕 本研究はこれまで河川の富栄養化や水質汚濁の原因となる陰イオンを対象にして,申請者が開発してきた「物質流出タンクモデル」において,生物の生長に必要不可欠な陽イオンも扱えるように拡張するものである.具体的には従来モデルに組み込んでいる「土壌内での移流」過程に加えて,陽イオンの流出過程で重要な位置を占める「基岩からの風化溶出」過程を新たにサブモデルとして加える.これを観測データに適用して,渓流水濃度の再現を行いモデルの構造について検証する.最終的に森林流域における物質収支を算定して,森林流域の水質保全機能について定量評価を行う. 研究の初年度であった平成14年度は,現地観測を中心に行い,「風化溶出過程」のモデリングに関して基礎情報を集めた.その結果,陽イオンの渓流水濃度は流出高と反比例すること,鉱物に接触する時間が長くなるほど陽イオンの溶出量も増加することなどから,タンクモデルでの貯留水深に反比例するような形式で溶出量を算定すればよいことが分かった. 〔研究成果(平成15年度)〕 徳島県横野谷流出試験地(植生:広葉樹林,地質:泥岩)で得られた水文水質観測データに「風化溶出」過程を組み込んだタンクモデルを適用した.その結果,1年間の渓流水カルシウム濃度の変化を的確に再現することができた.また同じ鉱物由来の物質である硫化物イオンについても同様の試みを行ったところ,同じように良好な再現性を得ることができた.林外雨によって流入する負荷量とタンクモデルの計算結果から得られる流出負荷量から,同流域における物質収支の算定を行ったところ,2つの溶存イオンはともに流出過多となっており,特に土壌中層からの流出量が多いことを明らかにすることができた.
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