研究概要 |
従来,ほとんどの交通需要分析においては,ある一時点の利用動向データ(例えば,鉄道利用経路の選択結果)をもとに交通需要モデルを構築し,そのモデルの説明変数を変化させることによって,サービス変化によるインパクトを分析していた.しかし,交通サービスの変化は本質的に動的な変化であるため,交通需要の変化も本来動的に分析されるべきものである。特に,鉄道路線の新規開業のように,利用者にとって新たな選択可能性が付与されるような,大きな交通サービス変化を伴う交通プロジェクトについては,静的な状態における行動とは異なる行動変容を行う可能性が高いことから,動的な変化の観点から需要動向を分析する必要性が高いと考えられる.そこで,本研究では,近年開業した埼玉高速鉄道を対象とし,開業前後の同一利用者の行動パネルデータを用いて,開業がどのように利用者の行動に影響を及ぼしているのかを分析することを目的とした分析を行った. 離散選択モデルを用いた分析の結果,開業前後で,乗車時の時間価値は,26.1円/分から30.2円/分へとやや増加するものの全体としては両モデル間でパラメータ値には大きな変化がないこと,開業後の方が開業前よりも誤差の分散が小さくなる傾向にあること,誤差項の相関を考慮した分析の結果から,システマティックな誤差の分散パラメータは,開業後の方が開業前より小さくなり,開業前における利用経験によって,人々の開業後め意思決定における不確定要素が減少したと解釈できる可能性があること等が明らかとなった.
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