研究概要 |
本研究の目的は,下水処理水再利用による渇水リスクの低減と感染リスクの増大というリスク・トレードオフにより,下水処理水再利用システムの最適化手法を構築することにある。昨年度は,阿武隈川を水道水源とする福島市を対象とし,確率マトリクスを用いて取水点付近の河川流量を予測する手法を開発した。これを利用して,流量が少ない渇水時には河川からの取水を制限し,不足分を下水処理水により補填するというシナリオのもとで,水道水を介した感染リスクを評価した。その結果,塩素消毒を施した処理水を再利用する場合には,感染リスクを上昇させることなく,渇水被害を低減することが可能であった。しかし,下水処理水中には発ガン性の塩素消毒副生成物が存在するため,その再利用による発ガンリスク増大が懸念された。 この成果をふまえて,本年度は,以下の項目について研究を行った。 1.発ガンリスク評価:下水処理水中の消毒副生成物として,トリハロメタン(THM)4物質を採用した。下水処理水由来のTHM濃度は,仙台市下水処理場の二次処理水に対するTHM生成能実験と揮発率測定実験から決定した(THM生成能347.2μg/L,揮発率65.9%)。河川水由来のTHM濃度は,阿武隈川のTHM生成能データ(n=12,平均107μg/L)から,濃度分布が対数正規分布に従うと仮定した。発ガンリスク評価の結果,下水処理水再利用にともなう発ガンリスクの上昇はほとんど見られなかった。 2.健康リスク評価:下水処理水再利用による感染と発ガンのリスクを総合化するために,DALY(障害調整生存年)という健康指標を採用した。再利用によって引き起こされるDALYは9〜13年であった。そのうち,感染によるDALYは2年程度であるのに対して,発ガンによるDALYは7〜11年と高く,発ガンによる健康被害の方が社会的優先度の高い懸案事項であることが分かった。
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