研究概要 |
建築構造部材に高靭性鋼材を使用することは,部材の亀裂抵抗性を高め、早期脆性破壊を防ぐ上で有効である。一方,部材の使用形態が多様化する中で、幾何学的条件に応じて必要材料靭性を定量化することは、形状選択、材料選択の自由度を確保する上で重要である。本研究では、十分な亀裂抵抗性を備え、設計時に予見が困難な部材性能の低下を防止できることを、材料に対する必要条件と位置付け、部材形状と必要材料靭性の関係について基礎的データを得ることを目的とする。 亀裂抵抗性及び必要材料靭性に対する直接的な影響因子として、破壊断面に対する多軸拘束が挙げられる。本研究では、490MPa級圧延鋼板からサイドグルーブ・切欠き試験片を製作し、引張破断試験を実施した。切欠き深さ・切欠き先端の先鋭度を変化させ、異なる形状を設定することにより,破壊断面における多軸拘束状態を段階的に変化させた。更に、材料靭性をパラメータとするため、試験温度を複数設定して試験を行った。 部材性能、亀裂抵抗性、材料靭性の指標として、エネルギー吸収能力,脆性破壊に転化するまでに許容される延性亀裂寸法、試験温度、以上3つの変数に着目して試験結果を整理した。その結果、以下の知見が得られた。 (1)形状が同一の場合,あるレベルの亀裂抵抗性が確保されれば、エネルギー吸収能力は飽和する。 (2)試験温度が同一で試験片形状が異なる場合、破壊断面に対する多軸拘束が高いものほど亀裂抵抗性が低下し、必要材料靭性に有意差が生じた。比較的簡便な形状の範囲で、多軸拘束及び亀裂抵抗性の違いを再現できた。 (3)エネルギー吸収能力を飽和させることを必要条件とする場合、必要材料靭性に対する切欠き先端の先鋭度の影響は小さい。
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