研究概要 |
金属間化合物における原子空孔の形成挙動は,純金属とは異なり複数の空孔形成サイトが存在するため,純金属に比べると非常に複雑である.本研究の目的は,第一原理計算および陽電子消滅法を利用し,金属間化合物における空孔形成サイトの決定を行うことである.本年度の研究実績の概要は以下の通りである. 1.CoAlおよびCoTiの各種空孔の陽電子寿命計算を行い実験結果との比較により導入される空孔サイトの決定を行った.その結果,CoAlについてはCo空孔とAl空孔がともに存在しその割合が組成により変化することを実験と計算により確認した.CoTiでは単空孔の理論計算値では説明できない測定値が得られており,単空孔以外の複空孔やTriple Defectが陽電子をトラップしている可能性があることが分かった. 2.CoAlおよびCoTiに関してサイズの異なるスーパーセルの計算を行うことにより,形成エネルギーの組成依存性を調べた.その結果,CoTi中のCo不正原子などでは化学量論組成付近で形成エネルギーが低くなる欠陥種があることが明らかになった.得られた電子状態を解析した結果,CoTiではTiからCoへの電子の移動がCoAlに比べて大きいこと,不正原子周辺のCo-Co結合がCo-Ti結合よりも強いことなどに起因していることが分かった.本結果は熱活性化過程で導入される空孔の形態が化学量論組成付近で変化している事を示唆している. 3.代表的な水素吸蔵合金であるLaNi_5の各種サイトの単空孔,複空孔および空孔クラスターの陽電子寿命計算を行い,陽電子寿命測定の実験値と比較することにより水素吸蔵過程で導入される空孔の同定を行った.その結果,水素化過程では主にNiの2〜3重空孔が形成されており,脱水素化後の回復焼鈍ではLaサイトも含んだ空孔集合体になることが明らかとなった.
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