研究概要 |
クリプトファンにクロモフォアとしてジシラニレンを導入することでイオンセンサーの構築が可能と考え以下検討を行なった。まず、1,1,2,2-テトラメチルジクロロジシランにp-ブロモトルエンのグリニャール試薬を作用させテトラメチルジp-トリルジシランに導き、これをNBSでα-プロム化した。さらにNa_2CO_3存在下アセトニトリル中、高希釈条件でジアザ-18-クラウン-6と1:1で反応させることでジシラニレンを架橋鎖とするクリプトファン1を収率58%で合成した。さらに高機能化を目指しPd触媒を用いた1のジシラニレン部分のメタセシスやアセチレン挿入反応を試みたが成功しなかった。1の構造はX線結晶構造解析により決定されカリウムイオンを包接するのに十分なcavityを有することが分かった。CDCl_3中1に対しKClO_4を種々の混合比で添加し^1H NMRを測定したところ1および1-KClO_4錯体にそれぞれ相当する2組のシグナルが見られ、室温では交換反応が遅いことがわかった。また1は244nmにUV吸収を持つがイオン添加により吸収の減少が見られた。一方、1に対しAgClO_4を添加し^1H NMRを測定したところ芳香環のシグナルのブロード化が見られ銀イオンと芳香環のカチオン-π相互作用が示唆された。さらに1とTCNEの1:1錯体の^1H NMRを測定したところ室温ではブロード化したシグナルが現れたが低温では対称性の高さを反映したシグナルが観測された。また1自体の^1H NMRとの比較からTCNEはジシラニレン部分ではなくクラウンエーテル部分と相互作用していると考えられる。またこの錯体は402および418nmに吸収を持つがKClO_4添加によりその吸収は小さくなった。以上、ジシラニレンを架橋鎖とするクリプトファン1の合成に成功し、その高いイオン捕捉能および興味深い分光学的特性を見出した。
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