研究概要 |
本年度は昨年度の成果を踏まえ,解析材料として栽培イネ2種(アジアイネ:Sとアフリカイネ:G)を両親系統にもつ正逆交雑の種間F1雑種の2系統(SxGおよびGxS)を用いて実験を行った.両親系統を比較対照とし,光呼吸反応と光合成反応のエネルギー消費バランスについてガス交換速度とクロロフィル蛍光消光の同時測定による解析を行った結果,以下の点が明らかとなった,1.総光合成速度については両F1系統が両親よりも高い値を示し,CO2固定から見た光利用効率の面でヘテロシス現象が確認された.2.光呼吸率(CO2固定に対するCO2放出の割合)においてはF1雑種間に違いが見られ,母親をアフリカイネとしたF1(GxS)の光呼吸率が低いことが明らかとなった.3.Vc/Vo相対比はGxSが他の系統の約1.5倍の値を示した.以上から,両F1間には光合成酵素Rubiscoにおけるカルボキシラーゼとオキシゲナーゼの相対反応比に違いが存在し,両F1雑種は同程度のエネルギー生産レベルを示すが,生産されたエネルギーの分配においてGxSの方が光合成によるCO2固定が効率良く行われていると推察された.F1雑種間の反応性の違いについては遺伝的な成り立ちとして核以外の遺伝情報の違いにあるのでないかと考えられ,Rubiscoの機能を決定し,その生成に深く関わるミトコンドリアDNA,およびそれと核DNAとの相互的な作用など複雑な要因が関与するものと推測された.F1雑種の光合成反応に関するヘテロシスが確認され,さらに正逆組み合わせ間でエネルギー消費バランスに違いがあることが明らかになったことは,今後のF1雑種育成での親の選定,その組み合わせを考慮する上での有用な知見となる.
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