研究概要 |
側根の発生や伸長を中心とした作物根系での可塑性の発現は,作物の環境ストレス耐性を考える上で非常に重要な形質であると考えられる.しかし,その発現メカニズムに関しては,ほとんど明らかになっていない.本研究では,(1)側根発生・伸長過程における物質動態に注目した研究,(2)細胞学的見地からの可塑性についての研究,の2点に注目し,乾燥ストレス下での可塑性発現過程を明らかにすることを目的とした.(1)については前年度得られた結果を投稿論文にまとめ,投稿中である. 環境ストレス下において,組織の発生や伸長に関わる細胞周期は大きく影響を受けると考えられ,ストレス条件下での細胞周期に関する知見は,ストレス条件下での側根の発生伸長,つまりは可塑性メカニズムを検討する上で非常に重要である.体細胞分裂の過程において,細胞分裂が起こらずにDNA合成だけが繰り返され,核内のDNA含量は整倍数的に増加する現象が見られ,この現象を核内多倍数性と呼ぶ.フローサイトメトリーを用いて,トウモロコシにおける核内多倍数性の発生パターンに関して,品種や組織による違い,生育環境の変化や加齢段階の差異が与える影響について検討した.根系においては,組織学的加齢や植物の加齢,塩ストレス強度の増加,アブシジン酸処理によって核内多倍数性の発生頻度は増加した.これらの結果より,フローサイトメトリーを用いた倍数性の比較検討が,加齢の進行やストレスに対する細胞学的反応を評価する上で,有効な手段である可能性が示唆された.この結果を現在まとめ,投稿準備中である. また現在側根の発生に関して,(1)5-Bromo-2' deoxyuridineを用い,乾燥ストレス下での,種子根根端および側根発生部位における細胞分裂活性の定量的評価,および(2)側根発生関連遺伝子と考えられる遺伝子のストレス環境下での発現解析を行っている.
|