研究概要 |
近年、胃腺等における粘液分泌細胞からGlcNAcα1,4Gal-Rという独特な糖鎖構造を持ったムチンの発現が確認された。本糖鎖は腺ガン細胞においても頻繁に検出されるため、ガン糖鎖抗原として胃ガンの診断、発生機構の解明等の側面から注目を集めている。さらに、病原性細菌のHelicobacter pyloriは、腺粘液細胞から分細されるαGlcNAcを含有する粘液には存在が認められないことから、本糖鎖がH.pyloriに対する感染防御機能を持つ可能性が示唆されている。そこで本研究では、α1,4 N-アセチルグルコサミン転移酵素(α4GnT)を用いて、α1,4GlcNAc含有糖鎖を合成し、さらに本糖鎖をポリグルタミン酸(PGA)に導入した人工糖鎖ポリペプチドの合成を行った。 本研究室において、ウマ血清中に高いα4GnT活性が発見された。そこで、この80%飽和硫安沈殿画分を粗酵素として、種々のp-ニトロフェニル(PNP)配糖体を受容体基質とし、αGlcNAc転移反応によるα1,4GlcNAc含有糖鎖の合成を行った。次に、得られたα1,4GlcNAc含有pNP配糖体のアグリコンのニトロ基をアミノ基に還元し、縮合反応によってポリグルタミン酸(PGA)のカルボキシル基に導入することでα1,4GlcNAc含有糖鎖ポリペプチドの合成を行った。これを人工糖鎖高分子と抗糖鎖モノクローナル抗体とのELISA法による相互作用解析を行った。また、ウマ血清には他の糖質関連酵素が夾雑酵素として存在するため、ウマ血清からα4GnTの精製を行った。 αGlcNAc転移反応の結果、GlcNAcα1,4Galβ1,3GalNAcα-pNP、GlcNAcα1,4LacNAcβ-pNP等、5種類のα1,4GlcNAc含有pNP配糖体を合成することができた。ウマ血清由来α4GnTは、用いた受容体基質の中ではGalβ1,3GalNAcα-pNPに対して最も高い反応性を示した。また、各受容体基質に対する比活性の比較から本酵素は糖鎖末端側Galのほか、pNP基の配向も認識している可能性が示唆された。さらにこれら配糖体を側鎖にもつ人工糖鎖高分子を合成し、糖鎖抗体との糖鎖特異的な反応性を確認することができた。一方、ウマ血清から硫安沈殿Con A-agarose、Superdex 75pg、およびUDP-hexanolamine-agaroseカラムを用いた多段階クロマトグラフィーにより、ウマ血清から夾雑する糖転移酵素活性を取り除くことができた.
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