研究概要 |
南西諸島北部でアカヒゲが比較的高密度に生息する鹿児島県十島村中之に設置した調査区約6ヘクタールで,成鳥と巣立った雛のほぼすべてを捕獲して個体識別用の足輪を装着し,繁殖経過の追跡と個体群パラメータ推定のための調査を継続して行った。同時に,個体群の遺伝的構造を明らかにするため,トカラ列島の中之島(n=30),平島(n=15),悪石島(n=14)で採集したアカヒゲのDNAサンプルを用い,ミトコンドリアDNAのコントロール領域を指標として遺伝的構造解析を行った。その結果,島嶼間の遺伝的分化係数(FST)は0.079〜0.108の値をとり,世代あたりの移住個体数が4.1〜28.1と推定され,この結果からはトカラ列島全体を一つの個体群とするのが妥当と考えられた。また,同様の方法により奄美群島(n=23)の間の世代あたりの移住個体数を推定すると1羽未満で,それぞれ別の個体群と考えるのが妥当と考えられた。このデータから推定されたトカラ列島における長期的な有効個体群サイズは,約9000羽であった(Willson et al. 1985の方法による)。一方,平均さえずり密度と生息地面積から推定される中之島の成鳥の推定生息数は約15000羽と推定された。そこで,トカラ列島を一つの個体群とし,成鳥の初期個体数を10000,15000,20000とした場合(1歳:2歳以上=4:6を過程)のそれぞれについて,個体群動態のシミュレーションソフトRAMASを用いて,アカヒゲ個体群の20年後の擬似絶滅リスク曲線を推定した。このとき,成鳥では1歳から2歳までの生存率を0.5,2歳以上の年生存率0.6,巣立ち雛の生存率は雄雛の帰還率0.15または成鳥の半分の値0.3とし,つがいあたりの巣立ち雛数をイタチの捕食圧が高い状態での2からイタチの捕食圧がない状態で8まで変化させ,人口学的確率性を組み込んだモデルをもちいた。その結果,イタチの捕食圧が高い場合に観察されたつがいあたりの巣立ち雛数2を仮定すると,他の指標をどう変化させても20年後の個体群の存続確率はほぼ0となった。巣立ち雛数が4,巣立ち雛の年生存率が0.3を仮定した場合でも,20年間に1度でも5000羽を下回る確立が1となり,つがいあたりの巣立ち雛数が6羽未満までは減少傾向を示した。
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