研究概要 |
トチノキとサワグルミを対象に,平成16年度は以下の研究を行った。 (1)野外天然集団の生態調査 京大芦生研究林モンドリ谷の固定調査地(2.8ha)において,前年度までに遺伝試料を採取した個体の位置測量を行った。位置情報から、遺伝解析の際に必要な個体間距離等を算出した。 (2)野外天然集団の遺伝分析 前年度までに京都大学芦生演習林モンドリ谷の固定調査地から採取したすべてのトチノキ・サワグルミサンプルからDNAを抽出し,マイクロサテライトマーカーを用いてマイクロサテライト遺伝子座における遺伝子型を決定した。 (3)データ解析および数理解析 各遺伝子座で対立遺伝子頻度,ヘテロ接合度等を求め,メタ個体群レベルで父性排除分析を行った。成熟個体の遺伝子型との比較から,種子や未成熟個体の親個体を推定し,局所的地域個体群間での遺伝子交換の程度を把握した。また、種子散布以降の実生定着・成長過程における遺伝子型ごとのフローを明らかにし,遺伝子レベルの動態パラメータを定量的に求め、推移行列モデルを構築した。トチノキについては、種子散布がメタ個体群内に制限されているのに対し、花粉散布によってメタ個体群間での長距離の遺伝交流が実現していることが明らかになった。また、実生から稚樹へと生育段階が進むにつれて個体間の血縁度が低下する傾向が見られた。これらの解析から、個体数の観点からは相対的重要性の低いサブ個体群であっても遺伝的なソースとしては重要であることが示唆された。
|