研究概要 |
平成16年度の計画に従い、リスク論的な個体群モデルの理論的な研究に取り組み、モデルの予測精度を高めるモデル選択に関する研究をすすめた。第一に平成15年度から継続してメタ個体群の絶滅モデルに関する研究を行った。ここでは、モデル選択の観点から単一の個体群モデルとメタ個体群モデルを比較して、絶滅リスクを予測する上で単一個体群のモデルがメタ個体群モデルの非常によい近似となることを示した(Hakoyama & Iwasa, 2005)。 さらに、禁漁区や保護区を設定する場合に、大きな単一の保護区といくつかの小さな保護区のどちらがいいのかについて研究を行った(SLOSS, Single Large Or Several Small)。メタ個体群の絶滅の観点からSLOSS問題を考える場合、全体の絶滅リスクは、それぞれの保護区における局所的な絶滅のリスクや、保護区間の環境相関・移動率の影響を受ける。保護区全体の面積Aが一定という制約のもとでは、ある保護区のサイズを大きくすれば局所的な絶滅のリスクは減少するが、制約として保護区の数は減らさなければならないので、全体の絶滅リスクは必ずしも減少しない。地域集団のダイナミクスを確率微分方程式の確率過程モデルとして導くことから始めて、地域集団間の移動、地域集団間の環境相関を考慮したメタ個体群モデルに拡張し、最善の保護区分割について議論した。棲息地の分割を考えるときに最も大切な要素は個体群変動の変動係数であることが今回あきらかになった。個体群変動の大きさに応じて、最善の棲息地分割は大きく影響を受ける。最も単純な場合として、それぞれの保護区の環境変動の相関が0で移動もない場合、従来までの研究では小さな保護区を多く設定したほうが、絶滅リスクが小さいと言われていた。しかしながら、現実的な個体群変動の変動係数においては、単一の大きな保護区において絶滅リスクが小さいことを示すことができる。 また、年齢構成モデルのモデル選択に関する研究を行い、密度効果がないモデルにおいてはデータの量に関わらず常に単純なモデルが常に優れていることを示した。
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