研究概要 |
日本の入会制度について,山形県上山市での調査,および既存の研究報告・統計(農業センサス)などで、入会制度の歴史的・技術的・社会的・経済的環境の観点から,この制度が成立してきた要因の明らかにした.日本の場合,入会林を管理する入会制度は木材生産に利用目的が限定されている.しかし,近年,森林ボランティアなど,広く参加者を慕って資金や労働力を調達する事例が見られるようになってきている.持続的資源管理のため,住民参加のみならず,市民参加も次第に重要性を増加させてきている.また,山形県上山市の入会集団を対象にした聞き取り調査から,入会集団が小さいほど,集会が頻繁に開催され,下草刈りなども共同で行われるなど,資源管理が適切におこなわれる可能性が示唆された. スリランカの灌漑制度に関しては,小規模灌漑地域で行われるベトマと呼ばれる水利慣行について,40年前は9割を超える農村がこの慣行を行っていたが,2000年には5割以下の農村しか行っていなかった.農村の人口増加とともに,地下水灌漑の急速な普及が水利慣行の必要性を低下させている.しかし,この慣行が行われるのは乾季のみで,雨季にはそれまで通りの溜池灌漑が行われている.第2に,大規模灌漑地域においても,乾季にベトマの仕組みが取り入れられていた.大規模灌漑地域においても地下水灌漑が普及しつつあるが,ここでも、ベトマの水利慣行と政府主導による灌漑制度の両方が存在している.地下水灌漑の利用に制限を設けている村も存在するなど,新たな仕組みが生まれつつあった. スリランカの水利慣行と日本の入会制度の分析から,アカロフが指摘するように,古い社会慣習の消滅と,新しい慣習の出現(森林ボランティアなど)という,複数均衡の存在が示唆された.途上国農村の貧困問題解決への誘導手法として,資源管理制度の整備による所有関係の明確化が,途上国農村で早急に必要である.
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