研究概要 |
これまでに我々は,コンドロイチン硫酸Aの徹底水解から得られたオリゴ糖がブタ精子のヒアルロニダーゼ活性を顕著に阻害すると共に,受精培地への10μg/mlオリゴ糖の添加により多精子受精が有意に減少することを明らかにした。そこで本研究では,抗ヒアルロニダーゼ活性がブタ体外受精時の多精子受精を抑制できるか否かをさらに追究する目的で,ポリフェノール類(タンニン酸,アピゲニンならびにクエルセチン)を用い,それぞれのヒアルロニダーゼ阻害活性を調べると共に、ブタ卵体外受精時の受精パラメーターへの影響を検討した。 まず初めに,ブタ精子から粗抽出したヒアルロニダーゼ活性に対する各種ポリフェノールの阻害能を測定したところ,タンニン酸で中性域(pH 7.0)活性型ならびに酸性域(pH 4.0)活性型のヒアルロニダーゼに対する濃度依存的な顕著な阻害効果が認められた。次に,体外成熟ブタ卵の体外受精培地に0〜10μg/mlタンニン酸を添加し体外受精を行った。その結果,5μg/mlタンニン酸添加区では,高い精子侵入率(70%)を維持した状態で多精子受精(26%)が無処理区(58%)に比較して有意に抑制された。しかし,受精前に卵のみをタンニン酸で前処理した場合,多精子受精は抑制されず,さらには,タンニン酸に比べて抗ヒアルロニダーゼ活性が劣るアピゲニンとクエルセチンには多精子受精抑制作用は検出されなかった。また,各種ポリフェノール処理が,卵透明帯への結合精子数やアクロシン活性を低下させたり,タンパク分解酵素による透明帯可溶化反応の抵抗性を増加させるといったことはなかった。 以上の結果から,タンニン酸の強い抗ヒアルロニターゼ活性と多精子受精抑制作用は一致しており,ブタ体外受精時のタンニン酸処理は,高頻度に起こる多精子受精を効果的に抑制する意味において有効であると結論された。
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