研究概要 |
随意運動時の血圧反射特性変調機構を解明するため,意識下動物の静的運動時にみられる血圧反射特性の動的変動を調べた.さらに中枢内神経伝達物質と想定されている一酸化窒素(NO)の運動時血圧反射特性変調に対する役割について検討した. 方法:持続的な静的運動(レバー押し,20-40秒間)ができる様に訓練したネコを用いた.麻酔下清潔手術において,左総頚動・静脈ラインの確保,左大動脈神経への双極刺激用電極の留置を行い,3-4日の回復期間を経て実験を開始した.運動前後に与えた大動脈神経刺激で得られる誘発性徐脈・降圧反応を対象データとした.さらに大動脈神経刺激は随意運動開始直前,開始時,運動後期などのタイミングで加えられ,それぞれの運動タイミングで得られた誘発性徐脈・降圧反応を安静時の対象データと比較した. 結果:誘発性徐脈は対象データに比較して,運動開始時に62±5%まで抑制された.この徐脈抑制効果が最も強く出現したのは運動開始直前あるいは前肢をレバーに向けようとしている時であった.しかし運動後期には徐脈抑制効果は認められなかった.この運動開始時の一時的な血圧反射抑制効果は中枢性コマンドの関与を強く示唆する.一方で誘発性降圧反応は対象データと比較して,どの時間経過においても差はなかった.次に,心拍成分の血圧反射特性変調効果におけるNOの役割を明らかにするために,NO合成阻害剤(L-NAME)の静脈内投与前後データを比較した.その結果,L-NAME投与前にみられた運動時の徐脈抑制効果は消失した. 本研究成績は,動脈血圧反射における心拍成分の反射特性が随意運動開始時に中枢性コマンドの影響を受け,動的に変化することを明らかにした.また中枢内で産生されるNOがこの血圧反射特性変調に関与することを示唆した.
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