研究概要 |
昨年度までに,成熟ラットをトレッドミル上で歩行させた際に海馬局所血流が増加すること,この反応に脳内コリン作動性神経(おそらく中隔-海馬コリン作動性血管拡張系)が関与することを明らかにした. 本年度は,歩行運動が海馬局所血流および海馬細胞外アセチルコリン(ACh)放出量に及ぼす反応の加齢変化を検討した. 海馬局所血流に及ぼす効果:3-4ヶ月齢の成熟ラットに加えて26-29ヶ月齢の老齢ラットを用い,歩行運動時の海馬局所血流(レーザードップラー血流計を用いた)と平均血圧の反応を調べた.ラットをトレッドミル上で4cm/sの速度で歩行させた.成熟ラットでは,30秒間の歩行を行うと,海馬局所血流が歩行開始後2-3秒以内にすばやく増加しはじめ,歩行中最大約7%増加し,歩行終了後約1分かけて徐々に元のレベルに回復した.血圧は歩行中に軽度に上昇(約5%),歩行終了後直ちに回復した.老齢ラットにおいても,30秒間の歩行により,海馬局所血流が歩行開始後すばやく増加した.海馬局所血流は歩行中最大約8%増加した.血圧は歩行中に軽度(約6%)増加した.老齢ラットにおける歩行時の海馬局所血流反応および血圧反応は,成熟ラットの反応と同程度であった. 海馬細胞外ACh放出量に及ぼす効果:マイクロダイアリシス法で海馬細胞外灌流液を3分毎に採取し,ACh量を高速液体クロマトグラフィーと電気化学検出器を用いて測定した.成熟ラットでは3分間歩行中に海馬細胞外ACh量が約2倍に増加した.老齢ラットにおいても3分間の歩行中に海馬細胞外ACh量が約2倍に増加した. これらの結果から,ラット歩行時に脳内コリン作動性血管拡張系が活性化する反応は,海馬アセチルコリン放出および海馬局所血流増加のいずれにおいても,26-29ヶ月齢の老齢ラットでも良く維持されていることが明らかとなった.
|