研究概要 |
【目的】正常皮膚機能の一部、ならびに皮膚付属器疾患において性ステロイド作用の関与が考えられている。特に乳腺と胎生学的に近似している汗腺組織では、汗腺由来の腫瘍において乳癌や子宮内膜癌のようにステロイドホルモン受容体の存在が指摘されている。しかしその意義や作用機構は十分解明されていない。そこで今回、正常皮膚付属器組織並びに皮膚原発の付属器組織に由来する腫瘍における性ステロイドホルモンとの関連についてエストロゲン受容体(ER)α,ERβ,プロゲステロン受容体(以下PR)A, PRB,アンドロゲン受容体(AR)の免疫組織学的検討を行った。 【方法】正常皮膚13例、皮膚付属器腫瘍53例(汗腺良性30例、悪性12例、脂腺良性8例、悪性2例、毛包良性2例)につき免疫染色を行った。評価は陽性率およびスコア化(染色強度+範囲(0〜6点))して行った。 【結果】正常皮膚では、ERαはいずれの付属器でも陽性例と陰性例双方が認められた。ERβは全例陰性であった。ARは脂腺、汗腺で高率に陽性であったが、毛包上皮細胞では全例陰性であった。PRAはほとんど発現が見られず、PRBは約半数の症例で陽性となった。スコアによる検討では、これらの性ステロイド受容体の発現動態と年齢、性別、部位との間に相関性は認められなかった。また汗腺由来の腫瘍では、全ての受容体で高率に発現がみられ、より高い得点では腫瘍のみが認められた。脂腺由来の腫瘍では正常組織との間に違いは見られなかった。 【結論】ヒト正常皮膚組織ではエストロゲンは主にERαを、プロゲステロンは主にPRBを介在し影響を与え、アンドロゲンは脂腺や汗腺を介在して作用しているものと考えられた。また発毛、脱毛に関係する毛包における性ステロイド作用は毛包上皮細胞そのものではなく毛包周囲の種々の細胞の受容体を介在して行われる可能性が示唆された。悪性腫瘍では染色スコアが高い症例に対して、乳癌同様、ホノレモン療法の適応への可能性等が示唆された。
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