研究概要 |
Gastrointestinal stromal tumor (GIST)の約90%は癌原遺伝子c-kitの機能獲得性突然変異により発生することが、明らかになってきている。ほとんどのGISTは消化管に単発性に発生するが、稀に、neurofibormatosis type 1 (NF1,von Recklinghausen's disease)の患者の一部で、小腸に多発GISTが発生することが知られている。しかし、これらのGIST発生に関するメカニズムは明らかになっていない。今回、我々は、NF1患者に合併したGIST、9症例36病変について、免疫組織化学、およびsporadicに発生するGISTで変異が報告されているc-kit,PDGFRA遺伝子変異についての検索を行った。33病変(92%)のGISTはKIT陽性で、25病変(69.4%)はCD34も陽性であった。もう一つのGISTマーカーであるPKCthetaも94.4%の症例で陽性であった。c-kitおよびPDGFRA遺伝子変異はそれぞれ、8%,6%に見られるのみで、変異部位も、sporadicに発生するGISTで見られる場所とは異なった。また、GIST周囲の筋層間神経叢には、KIT,PKCtheta陽性を示すカハール細胞の過形成が多数観察され、これらの病変を介してGISTが発生するものと考えられた。NF1に合併するGISTはsporadicに発生する腫瘍と異なり、特殊なNF1遺伝子変異そのものが、その発生に関与している可能性がある。これまでに、検索した症例の中には、GISTの治療薬グリベックを投与された症例はなかったが、c-kit,PDGFRA遺伝子変異がなかったことより、効果が乏しい可能性がある。今後、GISTを合併したNF1患者に共通した変異のタイプを明らかにすることは、NF1患者におけるGIST発生の予測、治療方針の決定に役立つものと考える。
|