研究概要 |
近年,粘膜を侵入門戸とする病原体に対しては,従来の注射接種型ワクチンよりも粘膜ワクチンの方が有効であることが報告されてきたが,代表者は,平成14年度から本年度までの研究期間中に,易接種型で非侵襲性の粘膜ワクチンの更なる汎用性を追及することを目的とし,粘膜感染症と無関係なマラリア原虫に対しても粘膜ワクチンが有効となりえるかを検討してきた.マラリアは,熱帯感染症として公衆衛生上極めて重要な節足動物媒介性の感染症であり,世界保健機構もその制圧に重点を置いた対策を進めてきたが,マラリア侵淫度の高い経済途上国で効果を発揮できる有効で安価なワクチンが未だ開発されていないことが対策の遅れの原因とされている.代表者は,本研究期間中に原虫のヒトから蚊への移行を阻止する伝搬阻止ワクチンの粘膜ワクチンとしての有効性を検討し,粘膜免疫法の高い有用性を示すことに成功した.即ち,マラリア伝搬阻止ワクチン抗原のマウスへの経鼻免疫は,注射接種以上の抗体価の誘導が可能であり,ネズミマラリア,ヒトマラリア(三日熱,熱帯熱)のいずれでも完全な防御免疫を賦与することに成功した.また,これまでの一連の実験から,1)組換えタンパクの直接の粘膜投与では免疫応答の誘導が極めて難しく,粘膜アジュバントが必須であること,2)コレラトキシンB鎖タンパク(CTB)などの粘膜キャリアー分子との融合化により効率よく免疫が可能であること,などが明らかとなった.以上の結果に基づき,CTB融合型ワクチン及びアジュバント分子作成を効率化できるヘテロ型CTB融合遺伝子の構築技術を提案し(特願2003-279156),この発現システムがマラリア以外の病原体由来抗原にも有効である可能性を示した.また,本年度は,コスト面で極めて有利といわれるDNAワクチンの実験を開始し,特に,新規性の高い粘膜投与可能なDNAアジュバントの開発に重点を置いた遺伝子構築の作業を行った.更に,経鼻投与よりも侵襲性の低い易摂取型ワクチンとして,経口投与型ワクチンの開発にも着手した.これら一連の研究業績は,将来的なマラリアワクチン開発のための基礎データとして重要であると考えている.
|