研究概要 |
ウエルシュ菌type BとDの分泌するε-毒素は、ボツリヌス毒素、破傷風菌の神経毒素に次ぐ強い致死活性と神経毒性を有する強力なタンパク毒素である。これまでに、ε-毒素の機能として、神経及び腎臓細胞に特異的に結合すること、細胞膜上でSDS耐性の7量体を形成すること、各種イオン(K^+,Na^+,Cl^-)を透過させることが明らかになっている。本研究では、ε-毒素の標的細胞結合、7量体形成、イオン透過に注目し、それらの機能を担うドメインを免疫学的手法により同定し、分子生物学的手法によりその分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。初年度に本毒素をフォルマリンでトキソイド化して抗イプシロン毒素モノクローナル抗体を12種類得た。そのうち7種類の抗体が中和活性を持つことが分かった。しかし、これらの抗体は、いずれもイプシロン毒素の高次構造を認識する抗体であったため、そのエピトープの決定には至らなかった。そこで、本毒素をN末端部分とC末端部分に分断することにより致死活性を消失させ、さらに、尿素で変性させた物を用いてマウスに免役した。その結果、一次構造を認識する抗イプシロン毒素抗体を産生するハイブリドーマの候補(約180個)を得ることができた。現在、中和活性を持つ抗体を検索中である。今後引き続き、中和活性を持つ抗体のエピトープを決定し、その中和メカニズムを明らかにすることにより機能ドメインの決定を行っていく。 一方、高感度免疫染色法を用いることにより、イプシロン毒素が腎臓において集合管及び糸球体等の血管系に高密度に分布していること、近位尿細管では管空側に、遠位尿細管及び集合管では基底膜側に分布していることを明らかにした。また、イプシロン毒素が腎臓に集積する生物学的意義として、腎臓がイプシロン毒素を特異的に吸着することにより個体死を防ぐ働きをしていることを明らかにした。
|