研究概要 |
B細胞は、抗原とであった後、ヘルパーT細胞依存的に胚中心を形成する。胚中心において、B細胞はその抗体遺伝子をDNAレベルで改編する。第一は、体細胞突然変異(SHM)である。これは主に点変異を抗体可変領域遺伝子に高頻度で蓄積されるもので、その中から抗原親和性の高い変異クローンが選択されることが、抗体の親和性成熟の分子基盤である。第二は、抗体定常部領域遺伝子(C)のクラススイッチ組み替え(CSR)で、C-mu遺伝子の5'側にあるスイッチ領域(S-mu)と、delta以外の定常領域遺伝子の5'側に各々存在するスイッチ領域(S)間で組み替えが起りその間のDNAを欠失させる事で下流の定常領域遺伝子が可変領域遺伝子のすぐ下流に位置する様になる。その結果B細胞はIgM/D以外のアイソタイプの抗体産生能を獲得する。近年、SHM,CSR両方に必須の蛋白質AID(activation induced deaminase)が同定され、さらに、AIDの欠損したB細胞ではCSR、SHM誘導に伴うDNA切断が起こらなくなっていることが示唆された。この発見によりDNA切断にいたるまでのステップにAIDが必須である事が強く示唆されるが、その分子機構、並びになぜSHMおよびCSRは、別々に制御されうるのか、という新たな疑問が提示されていた。 我々は、AID蛋白質の機能ドメインとその活性との関係を明らかにするする目的で、AID遺伝子に変異を持つヒトの免疫不全病"高IgM症候群タイプ2"患者及び人工的に得られた合計16種のAID変異体のCSR、SHM活性をin vitroの培養系で検討し、C末端側の17アミノ酸残基の部分がCSRには必要だがSHMには重要ではないことを明らかにした。また、大腸菌を用いたDNAに対する変異誘導能を指標に変異AIDのデアミナーゼ活性を検討した結果酵素活性が残存する物でもCSR,SHM活性が認められない例があり、そこからAIDがリンパ球での機能を発揮する為には、おそらくCSR,SHM特異的な補助因子が必要であると結論した。
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