研究概要 |
〔背景〕飲酒で誘導されるCYPなどの薬物代謝酵素は薬物への感受性の個体差を生むものと考えられる。エタノールの代謝に重要なアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)遺伝子には多型が存在するが,この多型によってMEOS系の誘導に差が生じ,酸化ストレス,臓器障害の程度に差が生じると考えられる。また,アルコール性肝障害については,従来不活性型ALDH2遺伝子多型を増悪因子のひとつとする見方が主であったが,機序については不明な点が多く,相反する報告がなされることもあり,一致した見解が得られていないのが現状である。 〔目的〕ALDH2多型の動物モデルであるAldh2遺伝子改変マウス(Aldh2(-/-)マウス)を用い,エタノールを負荷し,酸化ストレス指標やサイトカイン,肝逸脱酵素活性,病理学的変化,薬物代謝酵素(Cyp2e1)等を比較検討する。 〔方法〕10、11週齢のAldh2遺伝子改変マウス(Aldh2(-/-)(+/-)(+/+))にエタノール5g/KgBWを経口・腹腔投与し、経時的に肝組織・血清を採取、肝組織内MDA量・血清ALT活性・Cyp2e1mRNA TNFαmRNA発現量等を測定した。また炎症細胞浸潤度や脂肪変性などを評価した。同様に,給水ボトルにエタノールを添加(最終濃度0-20%)し5週間後の変化を検討した。 〔結果及び考察〕エタノール負荷で野生型マウスのALTがAldh2KOマウスのものより高値を示すなど,いずれの検討においてもAldh2KOマウスで肝障害が増強されない,もしくは緩和される可能性が示唆された。これらの結果は仮説と反しているとともに,不活性型ALDH2の保持者がアルコール性肝障害に対する感受性が高いとする従来の見方と反していて興味深い結果と思われた。予想外の結果が得られたこともあり,当初目的としていた薬物代謝酵素活性の解析を研究期間中に終えることができなかった。
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