研究概要 |
本研究では、近年遊離珪酸を発癌物質であるとする議論が盛んとなっていることを踏まえて、作業環境下での継続的珪酸吸入による肺癌発生のリスクの評価を行った。メタ分析の結果、遊離珪酸曝露者の肺癌発症に関するrelative risk (RR)は1.32 (95% confidential interval(CI),1.23-1.41)であり、遊離珪酸そのもののに発癌性があることを示す証拠は得られなかったが、珪肺患者においては肺癌発生リスクはRR=2.37 (95%CI,1.98-2.84)と有意に高まった。一方、遊離珪酸曝露者のうち非珪肺患者では、肺癌発生リスクはRR=0.98 (95%CI,0.81-1.15)であり全く影響がないことから、遊離珪酸そのものには発癌性はほとんどないという可能性もあることが示唆された。これらのことから、継続的珪酸吸入の可能性のある作業環境下において、肺癌発生を予防するためには、たとえ結果として曝露を減らすために許容濃度値を下げるという対策を行う場合であっても、まず珪肺発生を防止するという観点に基づいて対策を立てることが大切であることが示唆された。 続いて本研究では、珪肺患者における肺癌発生リスクが、喫煙によって高められることを明らかにした。すなわち、喫煙者ではRR=4.47 (95%CI,3.17-6.30)であるのに対し、非喫煙者ではRR=2.24 (95%CI,1.46-3.43)であり、ほぼ2倍の開きがあった。従って、継続的珪酸吸入作業環境下において肺癌発生を予防するためには、作業従事者の禁煙が強く勧められる。 従来、教科書的には肺癌は珪肺の合併症とはされていなかったことからも、本研究の成果は画期的なものであると考えている。本研究成果をもとにして、今後、珪酸吸入の可能性のある作業環境下での肺癌発生予防対策が有効かつ効率的に行われることが期待される。
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