研究概要 |
研究実績の概要 本研究の目的は、アルコール曝露による視床下部-下垂体系の正常確立が逸脱する遺伝子発現パターンを同定し下垂体分化誘導遺伝子に対するアルコール作用点を示すものである。平成15年度はラットを用いたモデル実験動物を作成し、視床下部の神経ペプチドである成長ホルモン放出刺激ホルモン:GHRH、ソマトスタチン:SRIH及び脳由来神経成長因子:BDNFに着眼し遺伝子発現の定量解析及び免疫組織化学法を用いて評価した。 Wistar系雄ラットの新生仔を10日齢から15日齢まで6日間連続して、1日あたり3時間アルコール蒸気に曝露(血中アルコール濃度;約430mg/dL)し実験動物モデルとした。曝露終了後から出生16、20、30、60日目に当たる日を材料採取日と定め、同条件における対照ラットとして母性剥離ラットおよび同週例の対照ラットの解析を同時に行った。材料採取は、組織内のRNAを効率的に回収するためにRNase非存在下で視床下部領域を採取し、total RNAの評価には吸光度比が260/280において1.6〜1.8であることを確認し、すべてのmRNA濃度を統一してからcDNA合成を行った。日本ロシュ社のRealtime PCRをもちいて視床下部領域で転写されるmRNA量を28S ribosomal RNA配列を内部標準として定量解析を行った。 本研究および予備実験の結果として、アルコール曝露終了後出生16日齢対照ラット群の値を100とした場合には、SRIHmRNA発現で雌雄ともに上昇、BDNFmRNA発現量では雄のみ上昇していた。しかしながら、アルコール曝露群対照ラットにあたる母性剥離ラットのSRIH,BDNFmRNA発現量は、アルコール曝露後出生20日齢において実験動物モデルラットよりも高い値を示した。対照ラットの環境要因を明確にするために母性剥離による影響を下垂体重量で検討した結果、対照ラットに比べて母性剥離ラットで出生20,30日齢で減少し,出生60日令においては増加していた。さらに、母性剥離ラットの視床下部GHRH及びSRIH受容体mRNA発現は、出生20日齢よりも60日齢で高い値を示した。 以上の結果から、アルコール曝露直後のSRIH, BDNFmRNA発現は性差が生じていた。一方、曝露後20日齢では、対照としての母性剥離ラットにおける発現量の上昇により、複雑な環境要因がもたらしたと考えられる。これらの事は、母性剥離ラットの解析結果として、環境要因がもたらす重要な所見として投稿準備中であり、アルコール作用を含む出生後の胎児における環境要因の解明へと発展するものである。
|