研究概要 |
ごく最近クローニングされた脂肪細胞由来の蛋白レジスチンが,肥満状態下でのインスリン抵抗性の主要因となりうるのかどうかについて解明するため,著明な高インスリン血症をきたす2型糖尿病肥満モデルdb/dbマウスを用いて本研究を遂行した.10週齢オスdb/dbマウスをメトホルミン(インスリン感受性改善薬)投与,インスリン投与,水投与(コントロール)の3群に分類し,4週間の薬剤投与後,脂肪を摘出した.予想通りメトホルミン投与群では高インスリン血症が改善し,インスリン抵抗性の改善が認められた.一方,インスリン投与群はメトホルミン投与群と同様に高血糖状態は改善したが,コントロール群と同様な高インスリン血症を呈していた.我々が作成に成功した抗マウスレジスチン抗体を用いて,摘出した脂肪でのレジスチン蛋白発現についてウェスタンブロッティングで解析したところ,驚くべきことにインスリン抵抗性が改善したメトホルミン投与群での発現増加がみられた.一方,インスリン投与群はコントロール群と同程度の低い発現であった.これらの結果から,インスリン抵抗性を惹起する脂肪由来の蛋白として発見されたレジスチンは,インスリン抵抗性を誘引するというよりもむしろそれを改善するように働いているように思われた.このことを裏づけるために,耐糖能正常で非肥満の10週齢オスC57BL/6Jマウスと10週齢オスdb/dbマウスにおいて脂肪中のレジスチン蛋白発現を比較したところ,予想通り,強いインスリン抵抗性の状態下にあるdb/dbマウスにおいて,発現減少がみられた.以上より,レジスチンは肥満状態下でのインスリン抵抗性の主要因とはなりえないと結論づけた.本研究により,レジスチンは肥満状態下での高インスリン血症により脂肪での発現が抑制され,高インスリン血症の改善により発現が増加する蛋白である可能性を明らかにした.
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