研究概要 |
腫瘍特異的免疫の効率的な導入を確立し,ヒト悪性腫瘍に対するワクチン療法の確立を目的として本研究課題に取り組んだ.マウス骨髄細胞より単核球を抽出してGM-CSF、IL-4を用いて骨髄由来樹状細胞を誘導することに成功した.また,マウス癌細胞株と骨髄由来樹状細胞との融合細胞をポリエチレングリコール法にて作成した.以上の過程でマウス1個体あたり1X10^5の融合細胞を作成可能であった.樹状細胞と癌細胞との融合細胞はマウスにて腫瘍特異的細胞障害T細胞を誘導可能であった.しかし,in vivoでの実験系では樹状細胞を作成した個体にワクチン投与するにはいたらず,有効な成果は得られなかった.そこで,ヒト固形癌での樹状細胞の役割について検討を加えた.ヒト原発性乳癌症例について原発巣およびセンチネルリンパ節での樹状細胞の分布について組織免疫学的に検討した.対象はセンチネルリンパ節転移陽性例15例,陰性例14例.原発巣の腫瘍内浸潤樹状細胞は転移陽性例(1視野平均9.8個)が陰性例(2.5個)に比べ有意に高値であった.また,転移陽性例で原発巣と転移巣の腫瘍内浸潤樹状細胞を比較検討すると転移巣内の腫瘍内浸潤樹状細胞が高値であった.センチネルリンパ節での樹状細胞数には両群間に有意差は認めなかった.また,腫瘍エストロゲンレセプター発現と腫瘍内浸潤樹状細胞との関係では陰性例が陽性例より高値を示した.以上の結果より,樹状細胞の個数ではなく,その遊走および分布がヒト固形癌における生体内での免疫能誘導に深く関わっているものと推察された.
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