研究概要 |
抗癌剤として使われているシスプラチン(cis-diamminedichloroplatinum,以下CDDP)は副作用として重篤な腎障害をもたらす.この原因としてCDDPが産生する活性酸素種(reactive oxygen species,以下ROS)が関与していると考えられている.このROSはアポトーシスを誘引し,DNA断片化を引き起こすことが知られている.一方,メラトニンは脳の松果体から分泌され,生体リズムに大きく関与している他に、抗酸化作用を持つといわれている.今回,ラットの初代培養尿細管上皮細胞を用いて、CDDPに起因するアポトーシスを,DNA断片化を指標に用い,DNA断片化に対するメラトニンの効果について検討した.0〜200μM CDDPを腎細胞に曝露したとき,DNA断片化は用量依存的であり,200μM CDDPでは細胞死の誘発が認められた.CDDPとメラトニンを同時に投与したものではDNA断片化は明白に軽減した.一方,CDDP曝露後にメラトニン投与を行っても,DNA断片化を軽減することは認められなかった.またメラトニンをCDDP投与の1時間前に投与し,その後CDDP投与を行ってもDNA断片化の軽減は認められなかった.さらに,ラットに5mg/kg CDDPを腹腔内投与した後,1日後の腎細胞をTUNEL法で染色したところアポトーシスが確認された. 以上の結果,CDDP曝露により起こるアポトーシスが腎細胞へのメラトニンの前投与あるいはCDDPの曝露後に投与した場合には,軽減効果は認められず,CDDPとメラトニンを同時に曝露したときのみ著明な効果が認められた.この実験より,(1)CDDPによる腎障害はCDDPによって産生されるROSに起因したアポトーシスを含むこと,(2)このアポトーシスはメラトニンの同時投与により抑制できる、という2つの事実が明らかになった.
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