研究概要 |
Thymidine phosphorylase(TP)は腫瘍における血管新生作用を有し、前立腺癌でも腫瘍増殖に関与している可能性が報告されている。今回、限局性前立腺癌37症例の全摘標本における腫瘍組織内TP蛋白発現の局在性を免疫組織学的に観察し、癌細胞内発現優位群と間質細胞内発現優位群とに分類した。両群とも腫瘍組織内TP蛋白発現レベルとTPmRNA発現レベルは正の相関を示し、同一症例の非腫瘍組織内での発現量と比較して有意に高かった。群別に腫瘍組織内TPmRNA発現レベルと同一腫瘍組織内VEGF発現、MVD、Doppler signal intensityとを比較した結果、間質細胞内発現優位群においてmRNA発現レベルと各血管新生関連因子との有意な相関が確認された。これにより、前立腺癌組織における間質細胞内TP蛋白発現がmRNAレベルでも腫瘍の血管新生に重要な役割を果たしていることが示唆された。また近年、内分泌療法抵抗性前立腺癌(HRPC)に対し、Paclitaxel(PTX)の抗腫瘍効果が認められ、estramustine sodium phosphate, carboplatinを併用した化学療法(TEC療法)の有用性が報告されている。当科でもHRPCに対する治療としてTEC療法を施行し、その優れた治療効果が認められてきている。一方、PTXによるTPの腫瘍組織内発現増加が、他領域の腫瘍において報告されている。そこで、二種類のHRPC培養細胞株(PC-3,DU-145)を用いて、PTX投与と細胞内TP発現との関係をWestern blot法にて調べ、TP inhibitor(TPI)よりTP酵素活性を抑制することで、apoptosis誘導への影響を検討した。両細胞株において、PTX投与はTP高発現およびcaspase-3活性を誘導した。TPI添加によるTP酵素活性の低下は、PTXのIC_<50>をPC-3で1.5×10^<-8>Mから2.0×10^<-9>M、DU145で4.5x10^<-9>Mから1.0x10^<-9>M(P<0.05)と有意に低下させ、caspase-3活性およびcaspase-8活性をともに誘導し、AIを有意に上昇させた。このことから、HRPC培養細胞株においてPTX投与により反応性に上昇したTP酵素活性はcaspase-8活性を阻害することで、PTXのapoptosis誘導経路と考えられているmitochondrial pathwayとは異なるapoptosis death-receptor pathwayを阻害し、PTXによるapoptosis誘導効果を減弱させている可能性が示唆された。
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