研究概要 |
腫瘍マーカーは癌の種類ごとに比較的特異的なものがあり、臨床の場で癌患者の管理に広く利用されている。しかし、術前評価や再発を必ずしも敏感に捉える事はできず、その臨床での利用には制約が多い。さらに、症例毎に癌の進行や癌の性質・特徴を評価して、その特徴にあったオーダーメードの治療が今後要求されると考えられ、その為にも、従来の腫瘍マーカーを超えて腫瘍の性質・特徴を的確に反映し、治療法の選択やその患者の予後を的確に判断できるような新しい腫瘍のマーカーの開発が重要であると考えられる。 近年、癌細胞に起こっている癌遺伝子や癌抑制遺伝子の異常が多く報告され、発癌メカニズムや癌進展への関与など多岐にわたる研究がなされている、そして、遺伝子変異の種類によって治療法を変えたり、使用する抗がん剤の種類を選択したりと、治療面でのオーダーメード化が起こりつつある。このような背景をふまえ、癌それ自体に起こっている遺伝子変異を患者に負担をかけない末梢血の検査で捉え、それを腫瘍マーカーとして用いることで、癌細胞それ自体の直接的な評価が可能になると考えられる。 今回、卵巣癌患者の術前及び術後に採取した血漿中から抽出したDMを用いて、腫瘍が持っ遺伝子変異(p53,K-ras)を同定し、それを経時的に観察することで腫瘍マーカーとして利用できるかどうかを検討した。 P53遺伝子に変異を認めた卵巣がんは27例中12例であり、その中で臨床進行期3期の症例2例に血漿中に変異遺伝子を認めた。1例は術前血漿で変異遺伝子を同定した後、術後、変異遺伝子は同定されなくなり、臨床的に再発を認めた1年3ヶ月後に再び血漿中に変異遺伝子が同定され、その後死の転帰をとった。 このように、腫瘍に由来する遺伝子変異を患者血漿中で直接同定することは可能であり、卵巣癌に特徴的な遺伝子変異が見つかればそれが腫瘍マーカーとして利用できる可能性がある。
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