研究概要 |
【目的】今回の研究は,頭頸部癌に対する新たな治療法の1つとしてアデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子治療の可能性を検討することを目的に行った.アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)は,安全で宿主域も広く有用なベクターと考えられるが,一本鎖DNAであるAAVベクターが二本鎖となる効率が低く,遺伝子発現が不十分であることが欠点の1つである.私共は,これまでの研究で頭頸部癌細胞においてγ線がAAVベクターの二本鎖合成を促進し,導入遺伝子の発現を増強することを見出した.今回,臨床応用を目指してこの現象を利用した治療実験を行った. 【方法】LacZ遺伝子または単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子を組込んだAAVベクター(AAVLacZ,AAVtkを作製し,これらをヒト喉頭癌由来のHEp-2細胞及びHeLa細胞に感染させ,γ線照射の有無による遺伝子発現効率の変化,ガンシクロビル(GCV)に対する感受性の差を検討した.更に,HEp-2細胞をヌードマウス皮下に移植し,形成した腫瘍にAAVベクターを感染させ,γ線照射の有無による腫瘍内での導入遺伝子の発現及びGCVに対する感受性の差を検討した. 【結果】AAVtk/GCV単独でも癌細胞に対する十分な殺細胞効果が得られたが、γ線はこの効果を最高で約15倍まで増強した.この効果は,サザン解析の結果から放射線がAAVベクターの二本鎖合成を変換される過程を促進したためと考えられた.また,腫瘍内でのAAVLacZの発現はγ線で約3倍に増強され,これも同様の機序によるものと思われた.ヌードマウス皮下の腫瘍の増殖はAAVtk/GCV単独でも低下したが,γ線の併用により30日間完全に抑制された.以上よりγ線を併用したAAVベクターによる自殺遺伝子治療の有用性が動物個体レベルにおいても示唆された.
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