研究概要 |
嚥下機能は老化により低下し,とりわけ準備期や口腔期への影響が大きいと言われる。また,高齢者ではその多くがすでに口腔機能の中心的役割を果たす歯を喪失している。 そこで,80歳で20本以上の歯を有する8020を達成した高齢有歯顎者と同年代の高齢無歯顎者の義歯装着時,非装着時の嚥下動態を比較し,高齢者における歯の欠損や総義歯装着が嚥下機能に及ぼす影響を明らかにすることを本研究の目的とした。 被験者は,明確な脳血管障害および神経筋疾患の既往のない高齢有歯顎者19名(男性12名,女性7名,平均81.2歳)および高齢無歯顎者13名(男性7名,女性6名,平均81.2歳)とした。習慣性座位にて10倍希釈バリウム溶液(10w/t%)10mlを3回指示嚥下させ,その嚥下動態を側面よりDSA装置にてX線シネフィルムへ記録し,定性的ならびに定量的評価の実施に加えて,口腔期開始から咽頭期終了までの舌尖運動のトレースを行い,嚥下時における舌尖運動の評価を行った。 結果として定性的および定量的評価より,高齢有歯顎者と高齢無歯顎者の義歯装着時には嚥下機能に有意差はみられなかったが,高齢無歯顎者の義歯非装着時に,高齢有歯顎者と比較して有意に高い頻度で喉頭流入が認められた。また舌尖運動のトレースからは,高齢有歯顎者や高齢無歯顎者の義歯装着時に比べて,高齢無歯顎者の義歯非装着時には舌尖の固定が不十分で,舌尖が多動する像が有意に高い頻度でみられ,嚥下時に舌尖が安定していないことが示された。 以上より,高齢有歯顎者と高齢無歯顎者の義歯装着時では著しい相違がないこと,義歯非装着時では高齢有歯顎者や高齢無歯顎者の義歯装着時と比べて嚥下時に舌尖が不安定であることが明らかとなり,高齢無歯顎者における嚥下動態を考える上で有益な示唆を得ることができた。
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