研究概要 |
特別養護老人ホームに入居し,要介護と認定された全部床義歯装着者においては,咬合力,咬合接触面積の減少と咀嚼能率の低下が顕著であることが報告されている(島崎:1998).このような要介護高齢者のQOLを向上させるためには,生命維持に欠かせない食物摂取を積極的に推し進めることが不可欠であり,そのためには咀嚼力を高め,咀嚼能力の改善をはかることが要求される.全部床義歯装着者の咀嚼能力の改善には,義歯側と生体側の要件がある.生体側には,これまでに低下した筋機能を高めることが要求される.高齢者においては,健常者に匹敵する筋力の向は望めないとする意見もある.しかし,介護を受けることにより自立行動の機会が減じた高齢者においては,特別護老人ホームへ入居する以前の筋力を取り戻すことに意義があると考える. そこで,本研究では要介護高齢者のADL向上を目指し,咀嚼筋群の等尺性収縮によるリハビリテーションの方法を開発し,日常生活・活動への影響を調べることを目的とした. はじめに,有歯顎者による筋等尺性収縮運動による咬合力および咀嚼能力の向上の確認を行うことした.5名の被験者(28歯以上の有歯顎者)に対してデンタルプレスケールシステムによる咬合力およびピーナッツによるによる咀嚼値の測定を2週間の筋等尺性収縮運動前と運動後に行った.運動後デンタルプレスケールシステムによる咬合力は平均47Nの増加を示した。咀嚼値は平均3%の増加が認められた。このことより、筋等尺性収縮運動により咬合力および咀嚼能力が増加することが確認された. 次に,上下顎総義歯装着者(2名)に対して同様の測定を行った。運動後デンタルプレスケールシステムによる咬合力は平均44Nの増加を示した。咀嚼値は平均4.6%の増加が認められた。このことより、上下顎総義歯装着者においても筋等尺性収縮運動により咬合力および咀嚼能力が増加することが確認された。
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