研究概要 |
ヒト顎関節滑膜細胞株の樹立とその特性 インフォームド・コンセントの十分得られた顎関節症患者および顎関節突起骨折患者の手術標本から滑膜細胞を分離,培養し,ヒト顎関節由来の滑膜細胞株を樹立した.この細胞は線維芽細胞様の形態をした均一な細胞群で,線維芽細胞のマーカー(vimentin, prolyl-4-hydroxylase)を発現していたが,T細胞(CD4),B細胞(CD19),血管内皮細胞(CD31, von Willebrand factor)のマーカーは発現しておらず,線維芽細胞様の性質を有していた.さらに,すべての細胞が滑膜B型細胞のマーカーであるlamininおよびHsp27の両者を発現しており,滑膜B型細胞であることが示唆された.しかし,一部の細胞がマクロファージのマーカー(CD68)を発現しており,A型とB型の中間型の細胞が存在しているものと考えられた. ヒト顎関節由来の滑膜細胞のメカニカルストレスに対する細胞応答の解析 滑膜細胞に過剰な伸展ストレスを加えた後に,経時的にtotal RNAを回収してRT-PCRに供し,iNOSおよび炎症性サイトカインの遺伝子発現を調べた.滑膜細胞に伸展ストレスを加えると,iNOS,IL-1β,TNF-α,IL-6,IL-8の発現が増加した.特に,TNF-αは伸展刺激前には検出できなかったが,刺激後早期(30分)にその発現が最大となった.IL-1βは徐々に増加して12時間で約8倍となり,IL-6,IL-8,iNOSは3時間〜6時間で最大となった.これらの結果から,メカニカルストレスは滑膜細胞にiNOSおよび炎症性サイトカイン(IL-1β,TNF-α,IL-6,IL-8)の遺伝子発現を誘導することが明らかとなり,これらの滑膜細胞から産生された炎症性メディエーターが複合的に作用して顎関節症の発症および病態形成に関与している可能性が示唆された.
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