研究概要 |
本研究では頭頸部癌分化誘導療法の開発を目指し,分化誘導剤ベスナリノンによるp21waf1およびTSC-22遺伝子の転写調節機構を解明を行った。まず,p21wafl遺伝子プロモーターのベスナリノン反応性領域の検索を行った。種々の長さのp21waf1遺伝子プロモーターを含むルシフェラーゼレポータープラスミドを用いた検索により,プロモーター領域のTATA Box上流の-168 bpから-13 bpの領域にべスナリノン反応性領域が存在することを明らかにした。次に,p21waf1遺伝子の転写活性化に関与する転写因子の同定をゲルシフトアッセイにより行った。その結果,ベスナリノン処理によりp21waf1遺伝子プロモーター領域に存在する6個のSp1サイトのうち,最も上流に存在するSp1-1とそのすぐ下流に存在するSp1-2サイトに転写因子Sp1およびSp3の結合することが明らかとなった。さらに,その転写調節にはヒストンアセチル化が関与しており,ベスナリノンによるp21waf1遺伝子の転写制御において,、DNA結合性転写因子Sp1およびSp3と相互作用する何らかのコアクチベーターの存在している可能性が示唆された。続いてTSC-22遺伝子をクローニングし,構造決定を行った。ヒトTSC-22遺伝子は3つのエキソンよりなり,蛋白読み取り枠は全エキソンにまたがって存在していた。TATA BoxはそのmRNAのサイズより2116に存在する(CATATATTTGC)が最も可能性の高いこと,また,転写開始点はTATA boxより7 bp下流の2126および29bp下流の2148に存在することが明らかとなった。TATA box上流約 2.1kbのプロモーター領域には多くの転写因子反応性領域が存在した。このプロモーター領域を用いてルシフェラーゼアッセイを行ったところベスナリノン,all trans-retinoic acid, dibutyryl cyclic AMP などの分化誘導作用を有する薬剤により転写活性化が認められた。ベスナリノンは,TYS細胞において転写因子Sp1,Sp3を活性化させ,ヒストンアセチル化を誘導することによりp21waf1遺伝子を転写活性化することが明らかとなった。またTSC-22遺伝子もベスナリノンにより直接の転写活性化を受けることが示された。
|