研究概要 |
ヒト脳血管病変の理解に重要な微小血管内皮細胞の線溶調節を検討し,以下の結果を得た。 血管内皮増殖因子(VEGF),塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2),腫瘍壊死因子-α(TNF-α),インターロイキン-1β(IL-1β)および形質転換増殖因子-β(TGF-β)の作用について微小血管内皮細胞の細胞培養系を用いて,線溶蛋白の発現と放出量の変化およびフィブリンザイモグラフィーによる線溶系への作用を調べた。 検討したサイトカインの中でVEGF_<165>は内皮細胞の培地へのPAI-1の蓄積には影響を及ぼさないが,t-PAの蓄積を有意に増加させた。そこでVEGF_<165>の濃度依存的な作用を調べたところ濃度依存的なt-PAの増加が確認された。t-PA mRNAの発現はVEGF_<165>によって上昇したが,u-PA mRNAおよびPAI-1 mRNAには変化は認められなかった。培地中の線溶活性はVEGF_<165>で内皮細胞を処理すると活性の上昇が確認された。 その他のサイトカインでは,FGF-2はt-PAおよびPAI-1の培地への蓄積に影響を与えず,TNF-αおよびIL-1βはt-PAの蓄積には影響を与えずに,PAI-1の蓄積を有意に増加させた。TGF-βはt-PAおよびPAI-1の蓄積に影響を与えなかったが,さらに詳細な検討が必要である。 ヒト脳微小血管内皮細胞においてVEGF_<165>はPAI-1の合成に影響を及ぼさずにt-PAの合成を選択的に誘導して液相の線溶活性を上昇させる特異な因子であることが明らかになった。
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