研究概要 |
1.9-Methoxystrobilurin Kの嵩高いエーテル側鎖部位の構造活性相関 9-Methoxystrobilurin Kの1,5-ベンゾジオキセピン骨格から伸張するエーテル側鎖部位の構造をゲラニル基に変換した新しい誘導体を合成し、その各種生物活性について検討した。その結果、9-Methoxystrobilurin Kが有効性を示す6種類の真菌に対しては、全く抗菌活性を示さなかったが、ヒト前骨髄性白血病細胞由来のHL60細胞に対しては、9-Methoxystrobilurin Kとほぼ同等の増殖阻害活性を示すことが明らかになった。これにより、β-メトキシアクリレート抗生物質の構造活性相関研究において、抗真菌活性の分離に初めて成功するとともに、細胞種選択的な増殖阻害剤を創出するにあたっての重要な知見を得ることに成功した。 2.9-Methoxystrobilurin Kに含まれる部分構造の安定化 9-Methoxystrobilurin Kの9-10位間に含まれるメチルエノールエーテル構造の安定化を目的として、この部位にベンゼン環を導入した誘導体を合成し、その各種生物活性について検討した。その結果、抗真菌活性および腫瘍細胞増殖阻害活性のいずれについても、9-Methoxystrobilurin Kより若干低下することが明らかになった。この活性低下の原因について計算化学的に検討したところ、ベンゼン環のオルト位の水素原子と二重結合上の水素原子との立体反発により、1,5-ベンゾジオキセピン骨格の空間配置が大きく変化することにより、標的タンパクであるCytochrome bとの結合親和性が損なわれていることを強く示唆する結果を得た。今後はオルト位に水素原子をもたないピリジン環を導入した新たな誘導体を合成し、この点について確認する予定である。
|