研究概要 |
転写因子Nrf2は抗酸化物質応答配列(Antioxidant Response Element, ARE)を介して種々の薬物代謝酵素遺伝子の転写調節領域に多く認められ,これらの酵素群の発現調節において重要な働きを担っていると考えられる. これまでにAREを介する転写を増強する化合物として,カレーやウコンに含まれ抗酸化作用や抗癌作用があることが知られているクルクミンを見いだした.そこで,クルクミンが実際にAREを介して薬物代謝酵素Glutathione S-transferas-P1 (GST-P1)の転写を上昇させるかを検討した.ヒト肝癌細胞株HepG2にクルクミンを処置するとGST-P1のmRNA量の上昇が認められた.GST-P1遺伝子の5'-上流領域をルシフェラーゼ遺伝子の上流に連結したプロモーターアッセイにおいてクルクミンはその転写活性を増強し,またAREに変異を導入するとクルクミンに対する応答性が消失した.一方,Nrf2のドミナントネガティブ変異体の導入はクルクミンの作用を抑制し,またNrf2の導入は直接GST-P1プロモーターの転写活性を増強した.さらにクルクミンを処置した細胞ではARE配列に対する核内因子の結合活性が増強した.以上よりクルクミンはAREに依存的な薬物代謝酵素の発現を上昇させることが示された. 他方,別種の薬物代謝酵素であるアルドース還元酵素(AR)の遺伝子上の転写調節領域にはAREの近傍にAP1配列が存在し,Nrf2による転写活性化にはその両方が必要である.転写因子c-JunはAP1を介して転写調節をおこなうことからNrf2との相互作用を検討した.その結果,c-JunはNrf2によるARの転写活性を抑制した.またこの作用にはAP1配列は不要であり,またc-Junタンパク質のロイシンジッパードメインを欠失した変異体ではその抑制活性は喪失した.以上より,c-Junはそのロイシンジッパードメインを介してNrf2と相互作用し,Nrf2の作用を調節していると考えられた.
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