研究概要 |
【本年度の研究結果】 1.IT機器を用いた糖尿病自己管理支援システムの継続運用と評価 (1)平成14年5月よりアークレイ社の糖尿病自己管理支援システム(e-SMBG)を,4名の思春期・青年期の患者(男性2名・女性2名,14歳〜22歳)に適用し,血糖データの管理を12ヶ月〜24ヶ月(平均継続年数18.5ヶ月)行った。3名は就職直前から,不登校の14歳の事例はインスリン注射頻回法開始直前から支援を開始した. (2)支援期間中の通信システムの必要経費は,携帯電話システム設置料31万1千円,通信費37万3千円,ホームページ使用量9万1千円の合計77万5千円であった.機器設置費及び通信費が高額であり,実践現場で今後活用するには経済的な課題が残った. 2.IT機器を用いた支援経過事例のまとめ及び評価 (1)継続支援事例の血糖値(BS値,HbAlc値)の経時的評価を行った.3事例において支援開始後約3-9ヵ月後には,HbAlc値は0.6%〜1.9%低下した.1事例においては支援開始6ヵ月後もHbAlc値は上昇したが,9ヵ月後からは徐々に改善され現在7%前後で安定している.しかし,支援開始後9ヶ月を過ぎると,3事例においてHbAlc値が上昇する傾向がみられたため,継続支援期間や方法の検討が必要である. (2)卒業・就職といった生活範囲の拡大に伴う行動変容に影響する要因として,(1)勤務時間の変更に合わせたインスリン投与量・投与時間の調整困難,(2)食事時間の変更に影響される血糖コントロール,(3)インスリン注射の時間や場所の確保,(4)血糖測定回数の減少,(5)インスリン注射の打ち忘れが明らかになった。これらの問題点に対し,e-SMBGを用いて血糖値を評価し自宅又は職場にいる患者にコメントを行うことで,不足している知織を提供し,実際の生活の変化にそったきめ細やかな指導が行え患者の行動変容が促進された。特にWeb上で蓄積されたデータから患者の血糖変化パターンをグラフ化したり患者とデータを共有し血糖値の意味づけを行った結果,患者が自分の生活行動を振り返り血糖コントロールの改善と維持に努める行動が確認された. (3)血糖データ及び文字数が制限されたe-mailの送受信だけでは,患者の生活内容を十分把握するには限界があり,対面的なコミュニケーションを併用した継続支援方法の必要性が課題である.しかし,IT機器を用いた支援システムは,長期的な患者の行動変化の把握を可能とし,生活に沿った支援方法の一つとして意義が大きい.
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