研究概要 |
適度な運動の継続が高齢者の脳にどのような影響を及ぼすかは明らかにされていない.そこで本研究では,長期運動習慣を有する高齢者20名(男性10名,女性10名,運動群:69.20±1.3歳)と運動習慣をもたない高齢者20名(男性10名,女性10名,非運動群:66.90±1.1歳)を対象に脳内情報処理過程のなかでも認知機能を反映すると考えられている事象関連電位P300を記録した.運動群は週に1回の体操教室(90分)を3〜5年以上継続して活動していた.体操教室の主な運動内容は,インストラクター指導のもとに音楽に合わせて上肢と下肢をリズムよく動かしながら前後左右に移動する全身性の有酸素運動とセラバンドや軽いダンベルを用いた筋力トレーニングから成り,運動強度は最大心拍数の約60〜70%程度であった.P300を記録するために体性感覚刺激オドボール課題を用いた.被験者は椅子に座った状態で右手人差し指への刺激に対して床に設置されたスイッチボタンを右足で押し,左手人差し指への刺激に対しては無視して反応しないよう指示された.刺激呈示からボタン押しがなされるまでの反応時間も同時に記録した.主な結果は次のとおりである. <結果> 1)運動群の反応時間は379.98±14.3msであり,非運動群の432.49±15.9msよりも有意に早い値を示した(p<0.05). 2)運動群のP300振幅は11.11±0.6μVであり,非運動群の7.54±0.7μVよりも有意に大きい値を示した(p<0.05). 3)運動群のP300は健康成人と同様に頭頂部優位の頭皮上分布を示したのに対して,非運動群では頭頂部から前頭に優位性がシフトする高齢者特有の均一化傾向を示した. <結論> 適度な運動を継続することは,高齢者の運動制御能力を保持させるだけでなく,加齢に伴う脳内認知機能の低下進度を緩やかにする効果が期待できる.
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